名古屋高等裁判所 昭和29年(う)670号 判決
論旨は、原判決は、罪となるべき事実として、起訴状記載の公訴事実と同一の事実を認定し、その法令適用において、第一の1、2の各脅迫罪及び同3の傷害罪についてのみ、刑法第五十六条第五十七条を適用して、累犯加重をした上、同法第四十五条前段第四十七条を適用して、併合罪加重をしているのであるが、右第一の1、2、3の各罪と第二の銃砲刀剣類等不法所持罪も併合罪の関係にあるのであつて、これが適用を遺脱したのは、法令の適用に誤があるというのである。よつて、原判決を観るに、原判決は、所論のように罪となるべき事実として、起訴状記載の公訴事実、即ち、第一の1、脅迫、同2、脅迫、同3、傷害、第二、匕首不法携帯の各事実を引用し、次に、累犯の原因となる前科を掲記し、これに対する法令の適用を示して、被告人を懲役二年に処する旨を言い渡しているのである。およそ、有罪の判決に示すべき法令の適用は、認定した罪となるべき事実に対して、如何なる法条を適用して処断したかを明らかにすべきものであり、殊に、適用した法令を羅列する方法による場合には、その羅列した法条を各事実について如何に適用したものであるか、特に、数個の事実を認定して場合には、その間に如何なる関係、即ち、併合罪であるか、又は、併合罪の規定を適用しない場合であるか、又、その罪に選択刑の定めがある場合には、いずれの刑を選択し、その数罪の刑を如何なる方法によつて加重するか、或は、累犯の原因となるべき前科がある場合には、その数個の刑のいずれに加重するものであるか、更に、加重減軽の順序方法なとについて、疑を抱かしめる余地のないように順序配列して、羅列すべきものであつて、その羅列の順序配列によつては、如何なる方法によつて、法令を適用したか明らかでないときは、刑事訴訟法第三百三十五条第一項所定の法令の適用を示したものということはできない。本件について、これを観るに、原判決には、法令の適用として
刑法第二百二十二条(第一事実の1、2、懲役刑を選択す)、第二百四条(第一事実の3、懲役刑を選択す)、第五十六条、第五十七条、第四十五条前段、第四十七条、第十条(判示第一事実の3の刑に基き加重す)、第十四条、第十九条第一項第二号第二項、
銃砲刀剣類等所持取締令第二十七条、第十五条(懲役刑を選択す)、
罰金等臨時措置法第二条、第三条、
と掲記してあるのであるが、各罰条に選択刑の定めがあるので、所定の懲役刑を選択する旨及び併合罪の加重をなすについて、最も重い第一の3の傷害の罪の刑に加重する旨を示しているのは、まことに妥当の方法であるが、刑法第五十六条及び第五十七条の累犯加重の規定は、第一の1乃至3の罪についてのみ適用したものであるか、又、同法第四十五条前段等の併合罪加重の規定も、右第一の1乃至3の罪についてのみ適用したものであるか、まことに疑なきを得ないところであり、前記のような順序配列の方法より観察すれば、累犯加重及び併合罪加重の規定は、右のように第一の1乃至3の罪についてのみ適用したものと認めざるを得ないのである。然し、前記第二の銃砲刀剣類等所持取締令違反の罪についても、所定の懲役刑を選択しているのであるから、判示前科により累犯となることが明らかであるので、これについても累犯加重の規定を適用し、更に、第一の1乃至3の罪と併合罪の関係にあることも明らかであるから、併合罪加重の規定を適用すべきものであることは疑を容れない。前記のような順序配列の方法によつては、到底、これについて、その適用をしているとは認められない。只、原判決は、被告人に対し、懲役二年の一個の刑を言い渡しているのであるから、全部の罪を併合罪として、その加重の規定を適用しているのではないかとも推測されるが、前記の順序配列によつては、左様に解することは、困難であり、而も、累犯加重の規定を第二の銃砲刀剣類等所持取締令違反の罪に適用したものと解することは、更に困難であるといわなければならない。従つて、原判決の法令の適用には誤があり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
(裁判長判事 高橋嘉平 判事 石谷三郎 判事 山口正章)